この地獄を生きるのだ/小林エリコ

この本は私が主催する『敷居の低い読書会』で紹介していただいた本です。

この本『この地獄を生きるのだ』は作者の小林エリコさんの自伝です。

短大卒業後にやっと就職できた出版社(エロ漫画の)がブラック企業。
ワーキングプアな労働環境で精神をすり減らし自殺未遂を図ります。
そして一命をとりとめた後、精神障害者として認定され生活保護を受けることになった主人公が、生活保護を自ら打ち切るという再生までを描いたドキュメント作品になっています。

生活保護受給者は怠け者という誤ったイメージ

生活保護というと怠け者というイメージが強いけど、この本を読むとそのイメージが覆ります。

ニュースなどで見る生活保護のイメージって悪く伝えられるものが多いです。
働けるくせに働かずにもらってる。生活保護で生活してるくせにベンツ乗ってやがる!
みたいなね。
そのイメージが刷り込まれてしまって、生活保護受給者のために税金が使われるのが許せないと思ってしまう人が多いように思います。

ちなみに統計では高齢者と母子家庭と傷病障害者世帯で約83%を占めています。
これらはほとんど働けない人なんだよな。
先に述べた働けるのに働かずに受給している人は約17%となり、少数派になるのです。
(厚生労働省 社会保障審議会生活困窮者自立支援 及び生活保護部会(第1回)資料4より)

おまけに不正受給額は保護費全体で見ると約0.45%に過ぎません。
(厚生労働省 全国厚生労働関係部局長会議資料(社会援護局詳細資料2)より)
「不正受給者が増えたから生活保護費が増大している」という話し方をする人もいるけど、それは誤りです。
一部の悪党を見て全ての対象者を悪く言ってしまっているわけです。

なので昨年初旬にニュースになった小田原市役所の「保護なめんな」ジャンパーはとんでもないことなのです。
このデータを見ると、「保護なめんな」ジャンパーを着ていた職員全員クビにしてもいいと思うくらい腹が立ちます。
1年経ってその現状は変わりつつあるようですが、このことを忘れずより良い環境となることを祈念しています。
『小田原市の生活保護問題1年 審査14日以内8割と改善』(東京新聞)

生活保護をやめられない環境

さて、本に戻ります。

自殺未遂の後に精神障害者となった彼女は働くことを医者から止められます。
だけど働かないことに収入がない。生きていけない。
そこでクリニックから勧められたのが生活保護。こうなるのは自然な流れです。

だけどその後の流れは読んでいて疑問に感じるようなことばかりでした。

生活保護の申請書類を投げてよこす市役所の福祉課窓口。
定型的な聞き取り調査だけをするケースワーカーの水木さん。
その聞き取り調査をサボり、勝手に書類を作成して申請する二代目ケースワーカーのパーマさん。
高額な治験薬を投与するために違う病気の診断を出す(彼女は統合失調症ではなかったのに)クリニック。

これじゃ全然生活保護を止めることができません。そして病状が良くなるとも思えない。関係のない薬を投与されて副作用に悩まされる状態になるのが治療なんですかね。
本人としてはなんとか生活保護をやめて普通の生活をしたいのに。

そもそも生活保護のやめ方がわかりません。
ケースワーカーがパーマさんになってからは来ることも減ったので、質問すらできません。

憲法では生存権が認められている。
だけどそれって、健康的な生活って、必要最低限の金銭や現物を与えるだけで(金銭の代わりに食料などの現物を支給すればいいという人もいるみたいですね)いいのだろうか?
電化製品が壊れても買い換えられない、冠婚葬祭があっても参加できないというような不安を持って生きることが健康的なのでしょうか?

普通の生活を送れるようになっただけでこんなに感動するものか

その後作者は生活保護をやめることができたわけですが、ラストに書かれていたエピソードを読んだだけで胸が熱くなりました。

クレジットカードを作ることができた。
そのクレジットカードで壊れたパソコンを買い換えることができた。
友達をランチに誘うことができた。

感動的なラストってもっと派手なものだと思うんですけど、これらのエピソードって誰もが日常的にできることだし、とても地味。
だけどなんだろう。この胸の熱さは。
これは冒頭からストーリーに引き込まれていたからこそのもの。
ドキュメンタリーの強さもあるのでしょうが、小林エリコさんの文章力もあってグイグイ引き込まれていきました。

生活保護を受けることは恥ずかしいという思いと、申し訳ないことだという後ろめたさを生むものなのかもしれません。
だけどどうしても必要な時には利用するべき制度です。
体を壊すとか事故に遭うとかは多かれ少なかれ誰にも可能性があること。なのでこの話は決して他人事にしてはいけない話だと思います。
いつ自分が弱者になるかもしれないのに、弱者を攻めるということは自分自身のセーフティネットをなくすことにならないかと感じました。

そんなことを思っていたらダ・ヴィンチニュースで小林エリコさんのインタビューが掲載されていました。
生活保護のあるべき姿とは? うつ病、生活保護、自殺未遂…“地獄”からの「再生」(ダ・ヴィンチニュース))
こちらも参考にしていただければと思います。

今は弱者に対してのバッシングが強くなりすぎている時代です。
そんな時だからこそ、このような本が心にしみます。
読むと人に対して優しくなれ、日常の生活に感謝の気持ちが芽生えます。
この本を多くの人が手にとって読むことを願います。

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